ワインラベル・デザインの試行錯誤「HYDRANGEA」
こんにちは、Spinnersの元山@kudakurageです。
ここ最近はデジタルプロダクトのデザインばかりしているわけですが、仕事をし始めた頃には印刷物を始めとした物理的なもののグラフィックデザインなどもよくしていました。
これも今のような仕事をし始めて1年目にやった仕事ですが、限られたものの中で制限のある中でアレコレと考えたり工夫したりしながらやった楽しかった思い出です。
(ラベルだけじゃなくて、商品写真の撮影やポスターを作ったり全部やって楽しかった!)
ちなみにこのお酒は数量限定で生産した梅酒なんですが、バーで飲んでてもおかしくない大人の梅酒を目指して、シェリー酒の樽を使って香り付けしたりしていて、アルコール度数高めなのに飲みやすいというかなりやばいお酒でした。
(今考えてもあれ以上に美味しい梅酒は個人的にありません)
今でも名刺など簡単なちょっとしたものは作ることがよくありますが、きちんとした大きな仕事としてはほぼしていない日々です。
Sunset Cellarsのきょろさん
そんなある日、いつもおもしろい私の友人がまたおもしろいことを始めたのを知りました。 (そんな彼きょろさん@kyoro353は引き続きおもしろいことをしている)
詳しくは記事を読んでいただければと思いますが、共同オーナーになっただけでなくワインの原料となるぶどうのツタ主制度というおもしろいサブスクリプションを始めたとのことで、これは面白そうだということで私もすぐに登録しました。
(なんと一夜にして想定以上の登録者が集まり、用意していたツタがなくなってサーバーエラーが出るという今まで聞いたことのない障害を起こしていました。ナニソレおもしろ)
そんなこんなで、ワインが届くのを楽しみにしていたのですが、きょろさんから連絡があり「ブランディングやデザインについて困っているので手伝ってほしい」とのことだったので2つ返事で快諾しました。
それからしばらくして、春に出荷予定のロゼワインのラベルを考えてくれないかという話をもらい、詳しい話を聞きながらすすめることになりました。(1月中旬くらい)
ロゼワイン HYDRANGEA
今回のワインには「hydrangea(ハイドランジア)」という名前をつけることがざっくり決まっていました。
ハイドランジアというのは日本語で紫陽花という言葉ですが、酸性とアルカリ性の土質によって色が変わる花ということで「赤と白の境界を絶妙に併せ持つ今回のロゼ」にはピッタリじゃないかという話でした。
個人的にはその年の作り方次第で毎年微妙に違う色になるという部分も含めて良さそうだなぁと想いました。
それから締切や数量、予算、どういう業者にお願いするのかなど、どういうオペレーションを想定しているのか、瓶の形状、ラベルに記載すべき内容などの前提条件を聞き取りしつつ、どんなふうに楽しいんでほしいかや、そのワインがある風景なんかも聞きつつアイディアを出していくことになりました。
私はそこまでワインに詳しいわけでもないので、ワインの勉強をしたり、他のラベルのデザインを調べたりもしました。それから発想を膨らませていくためにも紫陽花についても調べたりしました。
実は最初にハイドランジア(紫陽花)だと聞いたときに、日本だと紫陽花はかなり季節的な要因を含んだものなので大丈夫かなとも思いました。しかし海外も含めて考えれば春〜初秋にかけて咲く花だということで問題ないかなと。
とりあえずiPadでざっくりとラフスケッチをしつつ、先方に投げて反応や意見をもらいつつ方向性を見定めていきました。
紫陽花は開花から枯れるまでの過程や地質などによって花の色が様々に変化することから「七変化」や「八仙花」とも呼ばれています。
先程も書いたとおり「その年の作り方次第で毎年微妙に違う色になる」という部分が今回のワインにはエピソードとしてもとても良いと思ったので、それを最大限に生かせるようなデザインを考えていました。
具体的にはラベルの中でワインの色を見せるようなデザインにできないかということで、そのアイディアを中心にいろいろと考えていきました。
ワインの色を見せるということは飲んでいくにつれてラベルの紫陽花は脱色されていくことになります。これもあじさいの花を咲く前から咲いて枯れ落ちるまでの移ろいに思いを馳せる日本人の文化的には非常にぴったりだと思いました。
このときはシンプルに紫陽花を模したものや写実的な表現、海外の紫陽花の花言葉から女性のシルエットにしたものなど、その他にもいろいろと考えていました。
色を見せるデザインと校正の毎日
ざっくりと「ラベルの中でワインの色を見せるようなデザイン」と考えていましたが、実際にそれを形にできるのかという部分は確証を持っていませんでした。
どこまでできそうかという部分も含めて試しにデータを作って、想定通りの仕上がりにできそうかなども同時に行っていました。
ワインの色を見せるということでパッと思いつくのは、ラベルの一部を切り抜くか、透明にするかです。
私は最初、ワインのラベルということで質感も重要であろうと思い、ラベルの一部を切り抜くという方法でどこまでできそうかというのを検証しました。
今回は印刷会社のグラフィックにオンラインで発注するということが決まっていました。(私がラベルやパッケージの印刷業者についてもっと詳しければ他の選択肢もできたのかもしれませんが)
切り抜きラベルの試行錯誤
ということで、シールの切り抜きを最大限に活かしたサンプルデータを作りつつ、仕上がりとしてはどうなるかなど見ていきました。
入稿の段階からあまりにも細かい切り抜きや数の多い切り抜きなどは通常の注文でできないとわかっていたので、それを考慮した上でデータを作って発注しました。
実際にラベルを貼るオペレーションは手作業でお願いする方が決まっていたので、そのあたりも含めて貼りやすいかなども検証する必要がありました。
切り取りの形状や大きさによっては、キレイに剥がせなかったりという事がわかり得たりもしました。それから通常のラベルに比べれば貼るのも若干慎重になる必要があります。
ただ、切り取りのいいところは色がとても綺麗に見える部分と、紙ラベルの良い質感にできるところです。(この辺りで1月末〜2月初旬ころ)
透明ラベルの試行錯誤
そんな検証と同時に、先方からは写実的な紫陽花の案が良いのでは?といった意見も伺っていました。当初私はこのデザインで色を見せることは考えていませんでした。
ですが、透明のシールを使えばそれも不可能ではないのではという話ももらい、それもおもしろそうだということで、それも試していってみることになりました。
最初、きょろさんからはグラデーションの色(例えば薄い青系統の色)を入れることで華やかなグラデーションの花色を表現できないかという提案もいただいていました。
私もおもしろそうだと思いつつ、本当にそんなこと可能だろうかと思い試してみることにしました。
とはいえ、印刷業者に入稿して校正を出して届けてもらおうと思うと結構日付を取られてしまうので、DIYで検証しました。(今回はスケジュール的にもそこまで余裕がなかったので、結構たいへんでした)
色付きのセロファンや水性ペンを使って、ロゼワインの色に重ねたときにどのような色合いになるのかを試してみました。
結果としてはイマイチで、基本的に青系統の色を重ねると暗くくすんだ色になってしまいがちでした。
これは基本的に減法混色的な作用をしているために、色を重ねるほどに黒に近づいてしまいます。
もともとロゼワインはCMYKの原色であるマゼンタよりも赤黄色に近い色なため、それも相まって青を重ねるのはイマイチそうだという話になりました。
その上で、紫陽花の図柄のどの部分をロゼワインの色にするのが良いのかなども簡単に印刷して試してみたりしました。
このときは、紫陽花の図柄を透明にする案だけでなく、金色にした場合やホログラムレインボーの用紙を使った場合なども想定して試したりしていました。
こちらの透明シールの案もどんな仕上がりになりそうかを確かめるために、校正をだしてもらい確認しました。
透明シールを使って紫陽花の図柄を表現する方法としては、透明シールの上にベースの白を印刷することで表現しようとしていました。
ただし、ここでいう透明シールの白はあくまで印刷のベースのための下地塗料なので、想定以上に白がはっきりと出ず、白の部分も微妙に透けてしまう結果になってしまいました。
(入稿するときはそこまで気にならないかなとも思いましたが、実際に色付きの表面に貼ってみるとかなり透けていると感じてしまう…)
見る角度によってはキレイだけど、手にとって見るとめっちゃ透けてる…
ちなみに図柄やタイポグラフィなども色々と検討していました。
最初に私が描いた紫陽花は1輪刺しのような図柄でしたが、通常イメージするような紫陽花とは違うということで、葉も含めてボリューム感のあるような図柄も検討しました。
ここに関しては、紫陽花の1本とワインの1本を掛ける意味でも個人的には1輪刺しの図柄が良いのではと考えていました。
(実際には同じ年に生産したワインの色はほぼどれも同じなんですけどね)
タイポグラフィに関しては、当初から色々と案を検討していました。
- ワインによくあるような伝統や格式を感じるようなセリフ書体
- 新しさや気軽にポップに楽しんでもらいたいというサンセリフ書体
- 花言葉の元気の女性や、華やかさを感じられるようなスクリプト書体
これに関しては、きょろさんと最初から意見が一致していました。
伝統に対して新しさやスタートアップ的な感じのような対比を出していけると良さそうだなというのと、図柄と合わせたときに全体が引き締まって見えるという点からサンセリフ書体(Gotham)を使うことにしました。
(余裕があればGothamに近いほかのフォントも試そうかと思っていましたが、タイムアップしてしまったので、次回があればまたチャレンジしようと思っています)
ちなみにラベルの表記等について法的にもいろいろとルールがありますが、今回は裏面にそういった情報を表記したラベルを貼り、そちらを届けにだすことで表面に関しては自由にできるようにしました。(ここまでで2月の初旬〜中旬)
ラベルの色味の試行錯誤
白のベースのみだとどうしても透けてしまうということで、ベースに色を付ける案を検討せざるを得ませんでした。
(グラフィックに問い合わせて、白をもっと濃くできないかも問い合わせてみましたが、予算とスケジュールの関係から今回は難しいという事がわかりました)
もともとピクニックやパーティーなどで楽しめる明るく華やかなワインにしたいという話を聞いていたので、ラベル自体は明るく、ロゼワインの色も映える白が一番いいだろうと思っていただけに残念でした。
(しかも、それを想定して後変更不可なワインのキャップはマッチするであろうシルバーを選んでいました…)
ですがコレばかりは悔いていてもしょうがないので、今できる最善のものを出せるように、帰国していたきょろさんとも直接話しつつ、いくつかラベルのカラー案を出して再度校正をお願いしました。
今回は素材もシールとステッカーの2種類を発注していました。それからカラーラベルがいまいちだったときのことも考えて安牌の白いシールのラベルもつくって発注しておきました。
こればっかりは実際に貼ってみないとわからないということで、きょろさんが帰国時に持ってきていたサンプルに全部貼って見比べることになりました。
実際に貼ってみると他にも問題が見つかりました。
シールを貼るときに丁寧にはらないと気泡が入ってしまい、それが透けて見えるので変な模様が入ったように見えてしまうという問題です。
ラベルを貼ってもらう方々のことも考えると、オペレーション的には問題になってしまう部分です。
実はこれは白ベースのラベルのときにも認識していたのですが、ベースに色を入れれば気にならなくなるだろうと思っていたのですが、そうでもありませんでした。
ベースに色を入れた場合にも実際には少し透けて見えるためのようです。
用紙の素材としてはシールよりもステッカーのほうが透けにくく丈夫そうで質感も良いということでステッカーにすることにしました。
ベースの色に関しては最後まで何度も悩んでいましたが、ロゼワインの色が一番キレイに見えるという点、気泡なども一番気にならず透けにくいという点、他の方々の意見もいろいろと聞いた上で、最終的には黒色のラベルでFixすることになりました。
(初期の頃にワインのキャップでシルバーを選択したことが悔やまれる中での決断になりました…)
そんなこんなで、最初のお披露目となるはずだったDroidKaigiでは、こういった試行錯誤も含めて楽しんでもらう予定で、DroidKaigiバージョンのラベルなんかも作っていました。
(残念ながらコロナウイルスによってイベント自体が中止になってしまいましたが)
ということで、校正で気になっていた部分を最終調整しつつFixした入稿データを作って無事に納品となりました。
Sunset Cellarsからワインがもう届いた!これから届く!という方もいるかと思いますが、そんなラベルの部分も含めて楽しんでもらえればと思います。
アナログのデザインは楽しいぞ!
そんなこんなで試行錯誤の3週間ほどでしたが、デジタルのデザインにはないおもしろさがアナログのデザインにはありますね。
体験を考えるという意味では同じデザインですが、表現や出力まで変数や制限が多くあったり、確認できるまでに時間が必要だったりというのがアナログデザインの難しくもあり、楽しいところです。
今回は最初ということもあり、季節ワインのラベルの一つを担当しましたが、今後はブランディング部分も含めて深く関わっていければと思っています。
今後ともSunset Cellarsときょろさんの動向を楽しんでいってもらえればと思います。
Sunset Cellarsに興味のある方にプレゼントします!
実はSunset Cellarsのメンバーたちは収益で得たお金をすべてワイン造りに突っ込むというおもしろいことをしております。今回ラベルを手伝うことになった私も対価としてのお金はもらわず、代わりにSunset Cellarsワインでの現物支給となっております。
とはいえ、たくさんのワインを一人ではなかなか飲めるものでもありませんし、独り占めするのもおもしろくないということで、Sunset Cellarsに興味のある方にプレゼントしようと思っています!
Sunset Cellarsのツタ主に興味がある!ツタ主になったけど順番待ちで今回は残念ながらゲットできていなかった、でも飲みたい!という方々はぜひぜひ@kudakurageまでDMやReply等でご連絡ください。
桜とともにSunset Cellarsのワインをともに楽しみましょう!