Apple Vision Proで考える空間のデザイン
こんにちは、Spinnersの元山@kudakurageです。
SpinnersではvisionOS向けアプリの開発ノウハウを貯めていく意味もあり、Apple Vision Pro用のマイクロアプリの開発を多数行っています。
開発環境としてはiOSやiPadOSと同じ感じではありますが、visionOS上で実現できることにはPCやiPhoneなどとは異なる部分を多く感じています。
特に入力インターフェースの違いや制約にはユーザーインターフェースやインタラクションを考える上で重要な部分だと改めて感じます。
基本的なvisionOSのデザインの考え方に関しては、以前にまとめたWWDC2023のセッションを紹介する記事を見ていただければと思いますし、新しいアップデートに関してはWWDC2024のセッションをあつかったポッドキャスト・エピソードを聞いていただければと思います。
visionOSでは常に空間を考える必要があります。これは単に空間上に立体的に見えるオブジェクトを表示することができるという意味ではありません。
体験としての空間を意識してアプリをデザインしなければならないという意味です。そしてこの体験としての空間は3次元ではなく時間も含まれています。 現実とデジタルの入り混じった空間でどういう時間を過ごすのか?を考えてアプリを設計する必要があると感じています。
冒頭にも書いた通り、SpinnersではvisionOSでの開発ノウハウを貯めるためにマイクロアプリを多数開発してリリースしていっています。
これにはいくつかの理由があります
- 種類や趣向の違うアプリの開発を行うことで、広い範囲の技術的知見や開発知見をためる
- 様々な利用シチュエーションのアプリ開発を行うことで、visionOSの可能性を探る
- 小さくはじめることで、機動性高く方向性の修正をできる
また実際にApple Vision Proを使ってみる中で、まだまだOS自体も未発達で、Apple自身も方向性をまだまだ模索しているとも感じました。
ソフトウェア開発者として仕事に利用できる部分もありますが、まだまだ環境として便利なものとは言えないと感じたのです。
そういった環境の改善方法の一つにウィジェットはあるのかと考えます。
そもそも空間デザインとウィジェットアプリケーションの相性は良いように思います。
カーム・テクノロジーで語られているように、スマートフォンは自己主張の強いやかましいアプリでいっぱいです。(カーム・テクノロジーに関しては過去にポッドキャスト「resize.fm #11 カーム・テクノロジー」でも話しています)
空間の中で溶けるように存在し、人の過ごし方をサポートするような体験を空間ウィジェットなら実現できるように思います。
空間のウィジェット
Spinnersで開発してリリースしている空間ウィジェットアプリを紹介します。 シンプルなアプリなので簡単にできると考えていましたが、いろいろとvisionOSならではの難しさを感じることができました。
The Sticky Memo
https://apps.apple.com/us/app/the-sticky-memo/id6499185749
こちらはメモを書いて置いておけるというシンプルなアプリですが、極力シンプルにすることで空間上に付箋を貼っておくような体験になるかなと考えて開発したアプリです。
visionOSでは基本的に視線の情報というのを取ることができません。 これはつまりmouseOverやhoverに当たるイベントをアプリ側で取得してインタラクションさせるということができないということになります。
アプリのインターフェースは極力シンプルにしておきたいが、必要なときにボタンなどを表示させてアクションできるようにしたいと考えたときに、hoverのような予備動作に当たる操作はインターフェースを考えるうえで非常に便利です。
ただ、visionOSでは使用できないので、必要がないときもボタンを常時表示しておくか、クリックなどの任意のアクションによって表示させるかという方法になるかと思います。
悩んだ結果、メモWIndowをクリックしたときに編集や新しいメモ作成のボタンを表示させることにしたので、メモをシングルタップして直感的に編集するというようなアクションも諦めることになりました。 (現状はメモWIndowをダブルクリックすることでメモの編集に直接移行できるようにしています)
こういったシンプルなウィジェットアプリを考えるときに、hoverのようなイベントが使えないのは案外不便なんだなと感じました。
The Mini Calendar
https://apps.apple.com/us/app/the-mini-calendar/id6503232001
こちらも空間上に小さなカレンダーを置いておけるというシンプルなアプリです。
Windowサイズを変更することで表示するカレンダーの数(最小で今月のみ、大きくすれば先12ヶ月分も表示可能)を好みに応じて調節できるようにしたところが少しおもしろいところかなと思っています。
カレンダーのサイズも設定からS,M,Lと変更できるようにしていますが、The Sticky MemoもThe Mini Calendarも実機がない中で開発していたため実際にどんな風に見えるのか?使い心地はどうなのか?というのがわからないまま開発していました。
いざApple Vision Proが日本でも発売され、私たちも購入して開発中のアプリを試してみて気づいたことは多くあります。
とくに、大きさ感というのはシミュレーターで全くわからないと感じていました。 The Mini Calendarというから小さいものを…と考えていましたが、実際どれくらいの大きさ感で見えるのかがわからなかったのでサイズを変更できるようにしていたんですね。
実際に使ってみるとSサイズのカレンダーでもそこまで小さいと感じないなという印象で、急遽もっと小さいサイズ設定を追加することにしました。
こればっかりは実機で触ってみないと絶対にわからないことで、改めて難しさを感じたところです。
Mac向けのアプリをMacで開発したり、iOS向けのアプリをiPhoneで見ながら開発するように、visionOS向けのアプリは常にVision Proをつけながらデザイン・開発するというのがいいように思いますね。 (とはいえ長時間つけているのはやはり疲れます…)
空間のアプリケーションをデザインするということ
アプリケーションをデザインするにあたって重要なのは空間を考えることであって、空間をデザインするにあたって重要なのは体験を考えることだと改めて感じます。
優秀なデザイナたちは、今までもiOSなどで同じようにアプリの画面に閉じない「体験」というものを考えてきたと思いますが、visionOSのようなARやXRではそれとも違う「体験」というものを考える必要があるように思います。
アプリの画面上の体験だけでないのはそうで、見ていなくても空間に存在している時の体験というものも表現できるという意味で今までとは違う部分があるように感じます。さらにその重要度が上がっているという意味でも違うでしょう。
それからこれは現状visionOS特有のものではありますが、目と手(あと声)で操作するという体験のためのUIデザインが今までの画面デザインと大きく違うということ改めて認識しないといけないですね。
これはマウス操作から指でのタッチ操作に変わった時と同様に、当分の間はUIのベストプラクティスを探るような期間であると感じます。
つまり現状 Appleが示しているUIデザインもまだ完璧とは言えないというのが個人的な感想です。 まだApple Vision Proを試したことがないという方は、ぜひApple Storeなどで試してみてほしいですが、目でフォーカスして手でアクションするという方法での操作は思っている以上に難しい部分があります。
慣れればある程度楽に操作することができるのですが、ある程度慣れたところで出てくる操作ミスを多くの人が感じていると思います。
それは「ヒトは無意識のうちに本当にたくさんのモノを見ている」ということを感じます。 自分はボタンを見てタップしたつもりであっても、タップする瞬間に実は他のところに視線が移っていてタップミスをする(場合によっては意図していない隣のボタンをタップする)ということが起こってしまうのです。
WWDCでApple Vision Proが発表されたときのセッションでvisionOSの基本的なデザインに関するセッションがありましたが、そこでボタンの大きさやマージンや形状についてこっぴどく説明していた理由はここに感じます。
正直なところ、Appleが推奨しているレイアウトでも足りないくらいだと私は感じています(隣り合ったボタンでミス操作をして大事なデータを削除してしまったなんてことになったら目も当てられません)
visionOS開発者の間では「眼力が試されている」なんて冗談が言われていたりしますが、それほど今のvisionOSの操作には難しさを感じています。
それを考慮したアプリケーションの設計を考えないといけないなと思いつつ、もしかしたらApple Vision Proは音声UIで操作するのが普通になっていくものなのかもなとも思ったりしています。
ぜひSharePlayを試してほしい
ここまでApple Vision Proを使ったり、visionOS向けのアプリを開発していたりして感じた点について書いてきましたが、おそらく多くの人が気になるのは果たしてApple Vision Proで世界は変わるのか?といった新しい体験の部分なのかと思います。
正直まだまだ発展途上という印象なので、すぐに世界が変わるようなものではないと私も感じていますが、他のVR・ARデバイスなども使ってきてvisionOSならではのよくできた体験だなと最も感じたのは「SharePlay」でした。
SharePlayはiOSなどでもあった機能ではありますが、それがvisionOSでは空間での体験としてうまく融合しているなと感じました。
具体的には、FaceTimeで「空間」というモードをオンにすることで同一のバーチャル空間上に複数人で入り、本当に同じ場所を共有しているような体験ができるように感じたのが面白いところです。
他のVRデバイスでも同一のバーチャル空間上に複数人で入るというようなことはできましたが、それよりも現実感や本当に一緒にいるという感じが強い印象です。
こればっかりは実際に試していただかないと伝わらない部分だと思うので、ぜひ試していただきたいです。
SharePlayに対応のアプリではさらに複数人で同時に操作をするといったことなどができるので、一緒に共創している・同じ時間を過ごしているという感じが強く感じられます。
SharePlayに対応しているフリーボードというアプリを使えば、バーチャルのホワイトボードを前にみんなでミーティングするというのが実感を持って感じられるでしょう。
SharePlayはまだvisionOSの良さを引き出す要素の一つに過ぎないと思いますが、こういった可能性はまだまだ未開拓な部分が多いので、今後も実験的な開発をしつつ新しい可能性を考えていければと思います。
visionOSアプリ開発のお手伝いをします!
SpinnersではvisionOSでのアプリ開発(設計・デザイン・エンジニアリング)のお手伝いをさせていただいています。 まだまだ実験的で研究開発的なところも多い領域ではありますが、その分面白いところや可能性を感じるところもあると思います。 まだ良くわかっていないけれど、可能性を探っておきたい会社の方や実際にトライしてみたいアイディアをお持ちの方などご相談お待ちしております。