サービスづくりで大切にしてほしいこと

2024年9月29日 Kaz Motoyama / @kudakurage

サービスづくりで大切にしてほしいこと

こんにちは、Spinnersの元山@kudakurageです。

昨今のサービス開発はより良いソフトウェア開発手法の確立と発展、そこからデザイン的な考え方を取り入れることなどの一般化という流れもあって、かなりサービス開発のベースは上がってきているなという印象です。 とは言え、いろいろなサービス開発チームに参加して見ている中で、個々の現場では根本的なデザインの考え方が足りていないと感じることもまだまだあります。

サービスづくりにおいて重要なことというのは少し大風呂敷ではあるので、アレやコレやと重要なことはいくつもあげられるように思いますが、その中でもまず重要視したいことはあると思います。 何か新しいサービスを作ろうと思ったとき、今やっているサービスをもっと良くしていこうと考えたときなどに、私が大切にしてほしいと考えることをまとめました。

サービスづくりで大切にしてほしいこと

サービスづくりにおいて顧客やユーザーの声を聞くというのは当然になっていると思います。 「〇〇がほしい」「〇〇で困っている」といった声に耳を傾けることは重要ですが、そういった声に対する受け止め方というのも大切です。

受け止め方、それに対するリアクションとして以下の3点を重要視して考えると良いのではと思っています。

サービスづくりで大切にしてほしいこと

一見よく言われる当たり前ともとられる内容もあると感じるかもしれませんが、実際はそれが抜け落ちていると感じることがあるのも事実です。 それぞれについての詳細を書きつつ、最後には参考にしたい本も紹介します。

お客は本当に欲しいものを知らない

お客は本当に欲しいものを知らない これは先程の「顧客やユーザーの声に対する受け止め方」につながる話ですが、「〇〇がほしい→〇〇を作りました」が正解とは限らない、顧客が真の答えを既に持っているとは限らないという姿勢でいることが大切かなと思います。

往々にして顧客は「自分の眼の前の課題に対して、自分の世界の中の近視眼的な解決方法しか見ていない」ことが多いと考えられるからです。 有名なフォードの話がよく例にあげられますが、「もっと速く走る馬がほしい」という声は「もっと早く移動したい」という真の欲求の近視眼的な解決方法でしかないということです。

ユーザーへのインタビューやヒアリングというのはサービスづくりにおいて大切なことであるのは間違いないですが、目的を達成するための手段の一つでしかないとも言えます。 では目的を達成するのにキーとなることは何かと言えば「ファクト」とそれに基づく「インサイト」だと考えます。

顧客やユーザーの意見には本人にも無自覚なうちに嘘が含まれることがあります。 目の前の課題に対する近視眼的な解決方法と、それを正当化しようとする理由ばかりを探す行為や後付の感情変化などを知らず知らずのうちに行っている可能性があるのです。 (それは抽象的な事象に対する言語化の難しさから来るのだと思います)

なので、よくユーザーインタビューでは相手の意見を聞くことではなくて、疑うことのできない「ファクト」を集めることが大切だと言われるのです。 ユーザーの感情変化は参考程度に聞きつつ、そういった変化の裏側には事実としてどういう背景があるのか?実際はどういう行動を取っているのか?といった疑うことのできない事実に着目する必要があります。(これによりユーザーが課題とも思っていない課題を浮き彫りにする可能性もあります)

この「ファクト」が重要だという考え方から、インタビューやヒアリングというのは「ファクト」を集めるための一つの手段であり、他にも実際に自分が同じ環境に入って体験をすることや数値計測による統計解析など他の手段も考えられるのがわかると思います。

そのように集めた「ファクト」から、まだ顕在化していない気づき「インサイト」を見つけ出すことが重要になってくるのですが、近視眼的にならずに広い視点で考えるにはどうするのか?を次に書いていきます。

問いを考える

問いを考える マーケティングの有名な話で「ドリルを買いにきた人が欲しいのは、ドリルではなく『穴』である」という言葉がありますが、これも問いを考え直した一つの例と言えるでしょう。 「問い」といって一般的に思い浮かぶのは「question(質問)」や「probrem(問題)」だと思いますが、ここで言う「問い」は「issue(論点)」のほうがニュアンスとして近いかもしれません。

先程のフォードの話の例で考えてみたときに「もっと速く走る馬がほしい」は人や環境やその時々の条件によって大きく意味を変えるでしょう。

「もっと速く走る馬がほしい」という解決方法は条件によっては最適解として当てはまるかもしれませんが、本来達成したかった課題は何かを考えていくと、別の最適解が見えてくるのがわかると思います。 つまり、近視眼的にならずに「問いを考える」というのはよりメタ的な課題を考えるということに近いように思います。 「〇〇がほしい」と言われたときに、なんで「〇〇がほしい」と思うことになったのか?というのを追求していく姿勢が大切なのだと思います。

上記は空想の一つの例でしかないですが、追求していくたびにぜんぜん違うソリューションの可能性が出てくるのが思い浮かびます。 このように、深堀っていくことで導き出される答え(解決すべき課題)は変わってくるので、重要だと考える「問い(issue)」をどのように立てるのかは重要です。 「イシューからはじめよ」などの書籍で同じように語られていますが、解くべき課題が見つかればそのプロジェクトは半分以上終わったようなものというのは、それほど正しく「問い」を立てることの大変さと重要さを表しているのだと思います。

ではどういうふうに問いを考えたら良いのか? これにはいくつかやり方があるかもしれませんが、サービス設計のヒントになるやり方の一つとしては「ゴールダイレクテッド・デザイン」があると思います。 言葉足らずを恐れず簡単に言えば、課題を持っている対象者に対して「最終的にどういう成功の未来があるのか?」というのを可能な限り長い尺度・広い尺度で考えて、幸せのイメージを描くという感じでしょうか。 ただし、あまりにも遠い未来だけを考えてしまうと、漠然とした「幸せ」のようなぼんやりしたものになってしまうので、時間の尺度や視点の広さを少しずつ変えて考えてみるのが良いと思います。 (これについてはROLLCAKE社で実践されているような体験設計書の考え方が参考になると思います)

そうやって本質的に解決すべき課題は何なのか?がわかってきたら、それを解決する手段をまっさらな思考(理想)で自由に考えてみる(過去に書いた大喜利の考え方が参考になるかもしれません)、そして理想的な解決方法をブレークダウンしながら、自分たちの資産(プロダクト、技術、人材、人脈)を活かしつつ解決する方法が作れないか考える、というようなプロセスでできると良いと思います。

関連する課題、似たような問いを探す

関連する課題、似たような問いを探す ファクトを集めて、本質的な「問い」を考え、これで良さそうなソリューション案も出せそうだと思うところで、もう一度だけ立ち止まって考えてみてほしいことがあります。 それは「問い」を考えていく中で、似たような課題が既にないか?もしくは似たような課題を抱えているヒトはいないか?をさがすということです。

マリオやゼルダの生みの親でもある任天堂の宮本茂さんが「アイデアというのは複数の問題を解決するものだ」と話していました。

みつけた課題の分だけ単純に機能を増やしていくと、逆に使いづらい複雑な百特ナイフになってしまうでしょう。 これはいかにシンプルに様々な課題を解決し、本来向かいたかった場所に行くのかというのを示した話のように思います。 一つの方法で、よりシンプルに、本来行きたかったゴールにたどるつけるようになるモノが、他にはない価値を生み出す「アイデア」ということですね。

「問いを考える」という時点でかなりメタ的な課題というのが見えているので、半分くらいは進んでいるとは思いますが、そこからソリューションを考える(アイデアを生み出す)という過程でも意識する必要があるという話のように思います。

「〇〇がほしい」と言われたときに、実は同じように困っているお客さんはいないか? そのとき追加で聞いたもう一人の人は「課題とも思っていなかったけれど、実はそうなったらすごいイイネ」と感じるかもしれませんし、人それぞれ条件や環境によって微妙な差があるかもしれません。 複数の似たような人たちを同時に良い方向へ向かわせる方法はないか?と問いを改めて考え直したり、解決方法を調整したりできるかもしれません。

他にも既存サービス内に関連するような課題や、似たような解決方法が既にないか?というのも考えられそうです。 「〇〇という課題も実は同じ問いなのかもしれない?」「すでにあるモノのカタチを少し変えれば解決できるかも?」というように考えられていくとよりシンプルな設計というモノができるのではと思います。

これも突き詰めていくと、結局はよりメタ的な問いを考えていく「ゴールダイレクテッド・デザイン」の考え方に行き着くのではと思います。

ゴールダイレクテッド・デザインの考え方

つまり大切にしてほしいことの3点は「ゴールダイレクテッド・デザイン」の考え方の一部を見方を変えて紹介したようなものです。

お客は本当に欲しいものを知らない

問いを考える

関連する課題、似たような問いを探す

メタ思考を経由するプロセス

今回の話はメタ思考を経由するプロセスと捉えることもできるのかなと思っています。 イメージとしては下の図のように、特定のファクトからインサイトを集め、より長い尺度や広い視点でみる「問い」を考えていく。 そこから理想的なソリューションを思い描きつつ、現実的に提供可能な解決方法を導き出していくという感じです。 メタ思考を経由するプロセス ※ プロセスの途中に記載した手法は例としてあげています

ちなみにこれをもう少し細かく考えていくとダブルダイヤモンドのような「発散」と「収束」の方法論になっていったりします。

より理想的なソリューションから現実的な解決方法を導き出すという部分では、AirbnbのCEO Brianの語っている「11-star Experience」というのも面白いので参考になるかもしれません。

参考図書

今回書いたような話はカタチを変えていろいろな書籍で語られていたりしますが、特に以下に紹介する書籍は参考になるのではと思います。

ちなみに問いのデザインという本では今回のような話だけでなく、問いの在り方を変えることでチーム全体に創造的な対話を生み出し、クリエイティブな組織にしていくヒントのような話がメインで書かれています。非常に興味深く参考になる内容なので、ぜひ読んでみることをおすすめします。

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